本ブログでは、
時間外労働手当に関する裁判例を紹介しています(つづき)。
2 しかし、被告会社は、組合の反対を押して提案どおりの内容で家族手当の改正を行うこととし、就業規則である社員賃金規則及び同細部事項の取扱いの変更を適法な手続を経て行った。
右変更の内容は、従前はその全額が時間割賃金の基礎額に算入されていた有扶手当を、家族手当に改め基礎額部分はこれまでどおり時間割賃金の基礎額に算入するが、付加額部分は算入しないことにするというもので、他方、ストライキカットについては両部分とも従前の取扱いを変更しないというのであるから、これを制度全体としてみると、労働者にとって就業規則の一方的な不利益変更であるといえなくもない。
そこで、右付加額部分を時間割賃金の基礎額に算入しない取扱いが合理的か否かについて検討する。家族手当付加額は、右一(四)(1)記載のとおり被扶養者の人数を基準として算出し、基礎額に付加して支給されるものであって、労働者の個人的な事情に基づいて支給される性格の手当であること、ストライキカットの対象となる範囲については当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らして判断すべきものであって、家族手当付加額がストライキカットされるとしても、それによって右のような性質が変わるものではないことから、家族手当付加額は労働基準法三七条二項にいう家族手当に該当すると解される。しかも、時間割賃金の基礎額に算入される家族手当の基礎額部分の金額は月額八五〇〇円であって、従前の有扶手当の金額と同額であり、算入額そのものの切り下げはなされていないこと、及び、組合も最終的には右不算入それ自体はやむを得ないとしていることなどを考え合わせると、右のような家族手当付加額を設けるに当たってこれを時間割賃金の基礎額に算入しないとすることにはそれなりに合理性があるというべきである。
もっとも、右家族手当の付加額部分は、時間割賃金の基礎額に算入されないのにストライキの場合には欠務の時間に応じて控除されるということになるのであるが、この点は、昭和二三年ころから行われた旧家族手当の取扱いと同じであって、これが一般的に不合理で違法であるとまでいえないことは、既に右旧家族手当のストライキカットについてなされた前記の最高裁判所の判決(昭和五一年(オ)第一二七三号)で前提とされているとおりである。
したがって、前記就業規則の変更は適法になされたというべきであって、以後原告らと被告会社の関係は、右就業規則の定めるところによることになる。
3 なお、右改正において家族手当付加額は役職手当等の月ぎめの手当と同様に取り扱われることとされた結果、一般の欠務の場合には控除の対象にならず、ストライキ等による欠務の場合にのみ控除の対象になるのであるが、家族手当付加額の賃金の一部である以上、ストライキ等の場合に不就労の時間に応じて控除されると定められること自体はもともとやむをえないことであること、他方、一般の欠務の場合に控除の対象にならないとされたのは、被告会社において、家族手当付加額を時間割賃金の基礎額に算入しないとしたこととの均衡を特に配慮した結果であると解されること、そうだとすれば、ストライキ等による欠務の場合には特に右のような配慮を加えず、前記のように昭和二三年ころから被告会社において一貫して行われてきたストライキカットの取扱いをそのまま継続したからといって、特にストライキ等をことさらに嫌悪し不利益を課したものであるときめつけることは相当でないこと等の諸点を総合して検討すると、一般の欠務の場合とストライキ等による欠務の場合との前記取扱上の差異をもって、直ちに不当とまではいえないと解される。
したがって、本件家族手当付加額をストライキカットする一方で、時間割賃金の基礎額に算入しない取扱いが違法であるとはいえない。
四 結論
以上のとおりであるから、前記就業規則の改正は適法になされており、改正後の就業規則に基づいて行われた本件家族手当付加額を割増賃金(残業代)の基礎額に算入しない取扱いは適法であるというべきである。
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