当ブログでは、
時間外勤務について触れている裁判例を紹介しています。
第二 事案の概要
本件は、選定当事者である原告らが、時間外労働(残業)に対する家族手当付加額を基礎額とする割増賃金(残業代)を請求する事案である。
(争いのない事実)
一 原告らは、別紙目録(一)記載の選定者らから選定された選定当事者である。選定者らは、いずれも被告会社長崎造船所に勤務する従業員であり、全国一般労働組合長崎地方本部長崎連帯支部長崎造船分会(以下「組合」という)に所属している組合員である。
被告会社は、船舶、原動機、兵器等の製造修理等を業とする従業員約四万五〇〇〇人を雇用する会社である。
二 被告会社は、従来、扶養家族を有する従業員に対しその扶養家族数にかかわらず一律に支給する有扶手当を設けていた。その金額は、平成元年三月現在月額八五〇〇円となっていた。右有扶手当は、労働基準法三七条の「時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)」の基礎額(以下「時間割賃金の基礎額」という)に算入し、ストライキ等を含む欠務に対してその時間に応じてカットする取扱いであった。
三 被告会社は、平成元年四月、賃金増額に伴い、組合に対し、右有扶手当を家族手当(以下「本件家族手当」という)に改正することを提案した。その内容は、家族手当を基礎額と付加額に分け、基礎額として月額八五〇〇円、付加額として被扶養者の人数に応じて月額五〇〇円ないし三五〇〇円を支給するものとし、右家族手当基礎額は従前の有扶手当と同様に時間割賃金の基礎額に算入し、欠務の時間に応じて控除するが、家族手当付加額は時間割賃金の基礎額に算入しないこととし、かつ、ストライキ等の場合のみは欠務の時間に応じて控除するというものであった。
四 組合は、被告会社の右提案に対し、基礎額と付加額を区別する理由がないなどと主張したが、最終的には、家族手当付加額のストライキカットの点を除いては妥結し、家族手当付加額については、時間割賃金の基礎額に算入しない以上、ストライキ等を理由とする控除はすべきではないと主張した。
五 被告会社は、平成元年六月一五日、右家族手当の改正を含む賃金増額配分について、就業規則である社員賃金規則及び同細部事項の変更を行い、社員に通知するとともに、同月一六日、被告会社長崎造船所の過半数の労働者で組織する労働組合の意見を聴き、同意する旨の意見書を添付して右規則及び細部事項を長崎労働基準監督署に届け出た。その上で、被告会社は、同年六月支払分の賃金からこれを実施し、選定者らの時間外労働(残業)に対して家族手当付加額を時間割賃金の基礎額に算入せず、別紙目録(二)のとおり、家族手当付加額についての割増賃金(残業代)を支払わなかった。
(争点)
一 本件の主要な争点は、次の三点に要約される。
(一) 組合と被告会社間において、被告会社側の前記提案に対し、いかなる範囲で合意が成立したと解されるか。
(二) 家族手当付加額を時間割賃金の基礎に算入しないことが適法であるか。
(三) 家族手当についての就業要則の変更は適法であるか。
二 ちなみに、原告らは右の点について、以下のように主張する。
(一) 被告会社は、家族手当の改正を、原告らの所属する組合の反対を無視して一方的に強行実施したものであり,本件不算入について、労使間にいかなる合意も存在しない。
(二) 有扶手当については、ストライキカットされたものの時間割賃金の基礎に算入されてきた。
(三) 家族手当付加額は、ストライキ等の場合に欠務の日数や時間に応じて控除され、勤務の日数や時間に応じて支払額が変動するから、労働基準法三七条二項にいう家族手当に該当しない。
(四) ストライキカットするにもかかわらず、時間割賃金の基礎に算入しないとの取扱いは、労働基準法上も社会通念上も妥当性を欠き、賃金に関する労働契約上の合意の合理的意思解釈の範囲を超えて許されない。
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